TESE/ICSIとは?
精巣内精子採取・TESE(testicular sperm extraction)は、無精子症の男性患者様に対して精巣内から直接精子を採取して、これを顕微鏡下にパートナーの卵子に注入(顕微授精・ICSI:intracytoplasmic sperm injection)する方法です。桐友クリニック新松戸と大川レディースクリニックでは、共同参画によるTESE/ICSIを行っています。
TESEの適応
原則として日本国籍を持ち婚姻している不妊患者で精子所見が無精子症ないし、重症乏精子症の男性を対象とします。
適応は以下のような状況の患者さんになります。
(ア) 閉塞性無精子症 精子の通り道(精巣上体や精管)に通過障害があるために射出精液中に精子が認められない疾患。
(イ) 非閉塞性無精子症 精巣での精子形成機能が著しく低下しているために精液中に精子が認められない疾患。
(ア)(イ)ともにTESEの適応になり、特に(イ)ではTESEが精子を回収する唯一の方法です。
(ウ)重症乏精子症、不定型無精子症(cryptozoospermia)射出精液中にわずかにしか精子が認められず(重症乏精子症)
採取日によっては無精子症になってしまう(不定型無精子症)ケースもTESEの適応となることがあります。
桐友クリニック新松戸におけるTESE施行までの流れ
(ア) 精液検査
すでに無精子症と診断されている場合でも、繰り返し精液検査を行ったり、精液を遠心処理することにより微量な精子が見つかることがあります。
当院では他院での検査も含めて最低3回の精液検査を勧めています
(イ) 配偶者の産婦人科受診
当院でTESEを行う場合、奥様には大川レディースクリニックを受診していただきます。
奥様に重大な問題が見つかった場合はTESEができない場合もあります。
(ウ) 染色体検査
TESE希望の患者さんには染色体検査を受けていただいています。
血液検査ですが、結果が出るまでに2~4週間ほどかかります。無精子症に関連する染色体異常は染色体の数の異常やY染色体の異常などがあります。
Y染色体検査の結果によってはTESEをお勧めできない場合もあります。
もし染色体異常などが判明した場合は、病院を紹介の上で遺伝相談を受けていただくことがあります。
(エ) 同時採卵について
TESEで回収した新鮮な精子をその場で卵子へ注入する方法もありますが、精子が回収不能であった場合には奥様から採取した卵子の取り扱いに問題が生じるため通常はお勧めできません。
したがってTESEで回収した精子は凍結保存を原則にしています。
TESE治療の実際
TESEは精巣生検と同様に精巣組織のごく一部を採取して精子を回収するconventional-TESEと、顕微鏡下に精巣内をくまなく検索する micro-TESE(microdissection-TESE,MD-TESE)に分けられます。
Conventional TESE
陰嚢の真ん中に3cmくらいの皮膚切開を置き、状態の良好な側の精巣(左右差がない場合は通常は右側)を創外に引き出し、精巣白膜に小切開を入れて精巣組織の一部を採取します。
これで精子が十分に確認回収できれば凍結します。
閉塞性無精子症の場合はこのconventional TESEで精子が回収できる可能性が高いと言えます。
全身麻酔。手術時間は30~60分。日帰り。
micro-TESE
左記のconventional TESEの手技で精子が回収不能な場合は、引き続いて顕微鏡下の手術手技に移行し、精巣白膜を大きく開いて精子が回収できるまで精巣内をくまなく検索します(micro-TESE)。非閉塞性無精子症ではmicro-TESEまで必要になる可能性が高いと言えます。全身麻酔。手術時間は約2~3時間。日帰り。
◆精子の凍結・移送・保存について◆
当院でTESEを行い、正常の精子が回収できた場合に限り、組織の凍結を行います。
これをドライシッパーという運搬用のタンクに入れ、職員が大川レディースクリニックに移送し、液体窒素タンクで保存します。
後日、融解した精子を顕微授精に用いることになります。
なお、凍結精子の融解使用は婚姻している配偶者の卵子へ受精させる場合の使用に限ります。
凍結保存した精子は6か月ごとに保存の希望(保存期間の延長・廃棄等)をお知らせ頂くと共に保存にかかわる費用をお支払いいただきます。
その他、精子の凍結・運搬・保存に関しての詳細は、来院時にご説明いたします。
TESEの合併症
おもな合併症は創部痛、発熱、精巣上体炎、陰嚢内血腫などです。
重篤な合併症はまれであり、術中術後管理には十分注意をしていますが予想外の合併症が起きる可能性もゼロとは言えません。
日帰り手術を原則としていますが、合併症が起きた場合は近隣の総合病院へ入院していただく可能性があります。
micro-TESEを行った場合、術後1年くらいは男性ホルモンが20%くらい低下すると報告されていますが、日常生活へ影響するほどのものではありません。
しかしmicro-TESEを2回以上行うと精巣の更なる萎縮や不可逆性の男性ホルモン低下をまねく危険性が高まるので、複数回にわたる施術は推奨されていません。
費用について
TESEは現在のところ健康保険の適応が受けられませんので自由診療(自費)になります。
自費負担の内容は、術前検査、薬剤料、手術手技料、麻酔料、人件費、精子回収に必要な特殊材料費、病理組織診断料などが含まれており、
精子の回収に成功した場合は精子凍結費用・運搬費用・保存費用がかかります。
なお、千葉県には特定不妊治療費助成事業があり、年収等の条件を満たせばTESEも助成の対象となります(2016年8月現在)。
なお制度は不定期に改正されるため、詳しくは千葉県のホームページをご覧いただくか、居住地所管の健康福祉センターへお問い合わせください。
令和4年4月1日よりTESEは術前検査、麻酔料なども含め健康保険適用となりました。
ただし精子回収に成功した場合の精子凍結費用・ドライシッパーによる運搬費用は保険の対象外のため従来通り自費となります(税込22,680円)
費用
(手術費用は術前検査代を含む)
*2018年8月からの新料金で表示しています
Conventional-TESE (全身麻酔・日帰り) |
204,120円(税込) |
---|---|
micro-TESE (全身麻酔・日帰り) |
283,500円(税込) |
精子凍結およびドライシッパーによる運送費 (桐友→大川) |
22,680円(税込) |
凍結保存費用 (6か月毎更新) |
1ヶ月1,100円(税込) |
想定されるリスク
・上記にも記載ありますが、健康保険の適応が受けられませんので自由診療(自費)になります。
・術後軽い腹痛や出血、発熱があることがあります。麻酔の副作用で吐き気やふらつきも患者様によっては出る場合があります。